2025年6月25日 №550

2025年6月25日 №550

《国際的知識人の時代認識に耳を傾けよ》

「トランプ政権の誕生は米欧の敗北」(トッド氏)―ここに現代の時代認識がある。トランプ政権は米国と現代資本主義の腐敗堕落、産業的道徳的零落、国内外の分断を更に深刻なものにするであろう。歴史は今、全てにおいて、コミュニティ共同体精神を求めている!

 

21世紀は人民の世紀・人民の時代である。「トランプ政権の敗北」を通じて労働者・人民は自覚を深め、権力に対して固く団結し、人民民主主義と人民評議会を目指して偉大な進軍を開始するであろう!

 

202557日付毎日新聞は、1面トップ・2面上段において、「混迷する世界を語る」と題し、国際的に著名な仏歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏のインタヴュー記事を大きく取り上げている。われわれは、トッド氏が平易な言葉で語った「現代の時代認識」から深く学び、その深部にある現代の歴史時代の科学的本質を明確にしたいと思う。

トッド氏は次のように語っている。

〈トランプ政権誕生は「敗北」 ウクライナの早期停戦を掲げるトランプ米政権の誕生は米欧の敗北である。ロシアが米欧の経済制裁下で3年以上持ちこたえているのは支援する国があるからだ。米国主導のグローバリゼーションは世界の多くの国を搾取して来た。かつて多くの国が最先端を行く米国に追いつくことを目指したが、その米国は変質した。古い米帝国の配下にある欧州の国々は主人が変質したことを理解せず、ウクライナ戦争を継続する好戦的な姿勢を続けている。あたかも頭を失った鶏がそのまま進み続けているかのようだ〉

〈米国の工業力低下「盟主」降りる  国防総省は「敗北」の意味を米国がモノ作りの力を失い、工業力が低下したことだ、としている。エネルギー産業やIT、金融などのサービス業が栄える一方、工業が衰退し、エンジニアを目指す学生の数も減っている。ウクライナの戦争は米国にもはや砲弾を供給する能力すらないことを明らかにした。米国は今、かつては技術力で世界最先端だったドイツがナチスと共に崩壊したのと同じ道を歩んでいる〉

進む国家の断片化 各国迫られる自力防衛  米国でも欧州でも大学以上の高等教育を受けている層(エリート)が同世代に占める割合が約40%。トランプ大統領の支持者やドイツ・フランスの極右政党の支持者の多くは高等教育を受けている割合が低い。ここに社会の分裂がある。トランプ政権の失敗が明らかになれば両者は和解に向けて歩み出す。 他方、米国が世界を支配する力を失った結果、国家間の分断化も進む。現在主要国の人口は減少し、国力は弱まり、互いに他国に領土を拡張する余裕はない。分断された世界では各国は自力で自国を守る他ない〉と。

トッド氏の発言の本質とは何か。

1アメリカと現代資本主義・帝国主義は、侵略戦争、戦争を通じて崩壊した。アメリカ一極世界支配の時代は完全に終わった。

2金融資本主義に昇り詰めた米独占資本は腐敗・堕落し、利ザヤ稼ぎにうつつを抜かし、産業面でも道徳面でも落ちぶれ、夢も希望もない絶望の国に転落した。

3、資本主義諸国の内部は「格差拡大」でエリートと大衆の分裂が進み、また国際世界も「リーダー不在」で分断が進んでいる。しかし、人民は共同と連帯の精神を堅持し、権力に対して団結し、分裂・分断の克服を目指している。

ここにトッド氏が平易な言葉で語っている現代の時代認識の科学的本質がある。

 

アメリカと現代資本主義・帝国主義は、侵略戦争、戦争を通じて完全に崩壊した。アメリカ一極世界支配の時代は完全に終わった。

 

現在のウクライナ戦争における「米国の敗北」は、2003年から201112月まで戦われたイラク戦争の敗北に続くものであり、その敗北は必然の結果である。

2003318日、ブッシュ米大統領がイラクに対して宣戦布告、イラク戦争が開始された。われわれは、その瞬間、直ちに、平岡恵子人民戦線議長の名において、イラク戦争に関する《アピール》を発表した(機関紙2003425日・284号)。

『イラク戦争の歴史的位置とは何か。それはつまり人類史の発展過程において、最後の強大な帝国主義たるアメリカ独占資本とアメリカ帝国主義がついに崩壊し、次の新しい時代たる人民民主主義への歴史を切り開く転換期だということである。今度のイラク戦争は、全ての道が人民民主主義を目指して運動し、前進する偉大な時代への序曲になった』

まさに帝国主義は帝国主義戦争を通じて崩壊する。この歴史科学

の法則、正統マルクス主義たる大武思想に基づくわれわれの歴史時代認識は、完全に正しかった。トッド氏の発言がそれを見事に証明している。

イラク戦争発生から今日に至るまでの歴史的証言を振り返ってみよう。

日本では、「知の巨人」と呼ばれた立花隆氏が、20046月発刊の『イラク戦争・日本の運命・小泉の運命』(講談社)において、

 イラク戦争に正義はなく、イスラム世界と全アラブを敵とした泥沼戦争となり、アメリカは歴史上の帝国主義・大国と同じ興亡の歴史的運命を辿るであろう」との科学的認識を展開した。

 

次に、20085月に「21世紀型・グローバル恐慌」と言われた「リーマンショック」が発生すると、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ氏は、「リーマンショックの背後にイラク戦争がある」とし、「戦争・軍備にカネを費やすことはどぶにカネを捨てることと同じ」「膨大な軍事費を費消したイラク戦争がアメリカ経済を弱体化させた」と明言、アメリカ資本主義とその政治的支配力の崩壊を鋭い論調で暴露した(『世界を不幸にするアメリカの戦争経済』(2008年・徳間書店)。

 

また、201121日、イアン・ブレマー(ワールド‐ポリシー研究所上級研究員)は、、ニューヨーク・タイムズ紙上で、「世界からグローバル・リーダーシップが失われている。私たちはこの新しい時代をG-Zero(重力ゼロ)と呼んでいる」と発言し、アメリカの一極世界支配が完全に終わったことを鮮明にした。

 

そして、2008年発生のリーマンショックは、オバマ大統領の手で、莫大な国家資金(国民の財産)が「多額のボーナス」として金融資本に投入され、先送り処理されたが、この「オバマの裏切り」こそがトランプを刺激し、「敗北の政権」であるトランプ民族主義政権を生み出したのである。

 

結局、イラク戦争の敗北とリーマンショック、現在のウクライナ戦争を経て、アメリカ帝国主義とその一極世界支配は完全に崩壊したのである。

 

「トランプ政権の誕生」というこの現実が、この歴史的事実が、国際的知識人トッド氏と我々の時代認識の科学的真理性を完全に証明した。

 

金融資本主義に登り詰めた米独占資本は腐敗・堕落し、利ザヤ稼ぎにうつつを抜かし、産業面でも道徳面でも落ちぶれ、夢も希望もない絶望の国に転落した。

 

 

 

  レーニンは、ロシア革命直前に執筆した『資本主義の最高の段階としての帝国主義』(1916年)において、次のように述べている。

 

20世紀の初頭は古い資本主義から新しい資本主義への、資本一般からの金融資本の支配への転換点である。…自由競争が完全に支配している古い資本主義にとっては商品の輸出が典型的であった。だが、独占が支配している最新の資本主義にとっては資。本の輸出が典型的となった。…帝国主義の最も奥深い基礎は独占である。…この独占は、不可避的に停滞と腐朽の傾向を生み出す。…金利生活者国家は、寄生的な、腐朽しつつある資本主義の国家である』と。
 
現在の米国経済の停滞・腐朽・堕落、金利生活者の増大、産業・道徳面での零落、そして夢や希望の喪失、絶望国家への転落は、全て、レーニンが指摘した通り、金融資本主義国家・金利生活者国家が生んだ必然の産物である。

 

トッド氏が言うように、アメリカ経済が弱体化し、「世界で最先端を行く産業力・文化力」「砲弾を生産する能力」(高い技術・工業力)を失った原因は、トランプ氏が言うように、「EUや日本や中国が米国に寄生し、米国の富を奪っているから」でなく、「関税対策」で簡単に解決される問題でもない。それらは全て外因論である。

 

イギリスの著名な歴史学者で、名著『大国の興亡』を書いたポール・ケネディーは、米国の腐朽・腐敗した資本主義の姿を次のように描いている。

 

『ドル支配の時代は終わりに近づいている。…問題は米国の信用が疑われていることだ。…大きな勝者は投資家たちであろう。今日の国境なき世界において、彼らは国家的な忠誠心を持たず、一日中、利ザヤを求めて動く。彼らは商品世界のあらゆる理性を破壊した。銅の先物買いをするのは、銅線を作るのではなく、翌日売って15%の利益を得るためだ』と(2011710日付読売新聞『地球を読む』)。

 

 ここに、醜い、腐敗・堕落した金融資本主義の真実の姿がある。

 

  マルクスは、『経済学批判・序言』(1859年)、『資本論』(1867年)において、資本主義の終焉、コミュニティ共同体・社会主義への転換の歴史的必然を説いているが、現代の歴史的現実はマルクスの正しさをあますところなく証明している

 

 



資本主義諸国の内部は「格差拡大」でエリートと大衆の分裂が進み、国際世界も「リーダー不在」で分断が進んでいる。しかし、人民は共同と連帯の精神を堅持し、大国・権力に対して団結し、分裂・分断の克服を目指している。

 

われわれは「トランプ旋風を生み出したアメリカの歴史時代とは何か」との問いに次のように答えた(機関紙2016625日号)。

2008114日、世界が注目した米大統領選の結果、黒人の民主党バラク・オバマ上院議員 (47)が…新大統領に当選した。まさにオバマ大統領の出現は大激震となってアメリカ国家と社会と政治を根底から揺さぶり、世界に衝撃が走った。イラク戦争の敗北、米国発の金融危機、そしてオバマ大統領の出現が、一つの巨大な塊となり、歴史発展の梃子(てこ)となったのである。しかも 「オバマ旋風」の原動力となった若者たちが…「古いアメリカ」に一撃を加え、独占と帝国主義支配に引導を渡したのである。…

  さて、オバマ大統領の28年のその結果はどうだったのか。2016317日付日本経済新聞は「病めるアメリカ」について、次のように論じている。「病めるアメリカとは何か。第1は経済格差の一層の拡大である。米国では上位5%の高所得層が富の68%を支配し、下位50%の低中所得層が抱える富は1%にすぎない。第2は人種問題をめぐる対立は益々深まっている。第3は政治不信である。既成政治集団は大企業、大口政治資金に頼り、一般大衆の声は無視されている。第4はオバマ大統領には失望した。大衆の怒りは頂点に達している」

ここにトランプ旋風を生み出したアメリカの歴史時代がある。希望を託したオバマは裏切り者だ。もう誰も信じられない。大衆の怒りがトランプを動かした。これがアメリカの歴史時代であり、歴史が大衆を揺り動かしているのである。ここに歴史の法則がある』と。

結果、トランプ氏は民主党のヒラリー候補を破り、大統領選に勝利を果たした。

 そして、一旦はバイデン氏に敗れて政権を去ったトランプ氏は、ウクライナ戦争に介入し、激しい「インフレ」「格差拡大」「貧困化」をもたらしたバイデン政権に対するアメリカ国民の怒りの爆発に支持され、再び政権に返り咲いた。

  だが、言うまでもなく、ブルジョア政治家であるトランプ大統領には、アメリカ国民大衆の切実な要求である「格差の解消」も「ラストベルトの再生」も「インフレと貧困の解決」も「アメリカンドリームの復活」も、何一つ実現することは出来ない。「24時間で解決させる」と豪語した「ウクライナ戦争の停戦」も完全に行き詰まり、自信満々の「関税対策」も国際社会から「自由貿易体制と国際秩序を破壊するな」と猛反発を喰らい、全てが独りよがりの独り相撲に終わっている。結局はトランプ政治は完全に失敗に終わる。

そして、人民大衆は、その「失敗」を通じて「問題は独占・権力にこそある」ことを自覚し、「エリートと大衆」などいう愚かしい分裂を克服し、共同・連帯を実現し、コミュニティ共同体・社会主義を目指す偉大な闘争に決起していくであろう。

また、既に多くの国が、もはや軍備・軍事同盟によっては国を守ることは出来ない。現代においては「自力防衛」(自主・独立)を強め、共同・協力を強化しない限り、自国の平和も安全も守ることはできない、との自覚を深めている。

  現代においては、国内問題も、国際世界の問題も、全てコミュニティ精神とコミュニティ共同体抜きには、何一つ解決することは出来ない。ここに現代の歴史時代の核心がある。

 

われわれの未来展望!

人民戦線運動綱領

 

(一)地球上のすべてにおいて、人類社会において、何よりもまず、人間としての尊厳を確立し、人間性を打ち立て、権利と自由と民主主義にもとづく連帯と協力と共有・共同の社会を実現する。人類の未来は新しい型のコミュニティ社会である。

(二)そのための大前提こそ国家と権力を人民の手に移すことである。すべては権力(の本質)が決定する。最大限の利潤のみを追求する独占的財閥と帝国主義の権力と国家を破壊し、人民権力と人民政府の樹立。

(三)人民権力と人民政府樹立の母体は人民戦線である。人民戦線

 は独占的財閥と帝国主義支配に反対するすべての勢力(労働者、農民、非独占的企業家、中小商工業者、文化知識人、学生・青年・女性)の結集体であり、その政治勢力である。

 

(四)人民権力の基本構造は、地域別、産業別、各層別に組織され、構成された人民代表による人民評議会、人民委員会であり、ここにすべての権力(立法、司法、行政)を掌握させる。

 

(五)人民評議会と人民委員会はその機能実現のための行政機関を執行するとき、必ず「生活と権利、自由と民主主義、独立と平和」の実現。「人としての権利と自由と尊厳」の確立。「生産活動においては連帯と共同のもとでの社会的競争」。「経済的真の平等、政治信条の自由、批判の自由と行動の統一」の実践。「内容の独裁・方法の民主主義」という作風を実行する。

 

(六)このような人民権力は天から降ってきたり、地下からわいて出てくるものではない。それは運動と闘いと実践の中から生まれ、敵権力と併行して成長し、転化する。故に人民戦線運動における基本的勝利とは「人民闘争、人民戦線、人民権力(人民評議会)」であり、この基本的勝利ぬきには真の勝利、最終的勝利はない。

 

(七)そのための基本戦略、人民戦線戦略とは何か。それはいっさいの運動と闘いの根本目標、根本原因を権力問題として闘うこと。そのために徹底した外線作戦を展開し、統一戦線を形成して敵を包囲すること。そのための基本認識と基本スローガンを「生活と権利、自由と民主主義、人間の尊厳、人間性の確立と擁護」におく。この基本思想のもとに共通の敵に対する共同の闘いとして進めつつ、あくまでさきの「基本的勝利」を追求する。目前の勝敗の度合いはこ の「基本的勝利」の度合いが決定する。

 

(八)そして人民戦線戦術とは何か。人民のいっさいの諸要求(経済的、政治的、思想的、社会的、歴史的)の実現。闘争(運動)形態は、情勢と条件と力関係のなかから生まれるものであり、それは集会とデモ、大会と宣言、声明と決議、宣言と街頭行動、ストライキと実力、敵権力への包囲と圧力、行動隊と突撃隊などの展開である。

 

(九)人民戦線運動の合言葉はつぎのとおりである。

 

◎人民戦線とは人民による、人民のための、人民の世界(権力、政府、社会)をめざす運動と闘いである。

 

 ◎人民戦線とは独占的財閥と帝国主義的支配に反対するすべての勢力の統一戦線であり、「批判の自由、行動の統一、政治活動の自由」という人民民主主義的団結と統一体である。

 

 ◎人民戦線とは真の人間性、真のヒューマニズム、真の人間愛にみちた集団であり、人民権力、人民政府の母体であり、われわれの国家である。

 

 ◎生活と権利、自由と民主主義、独立と平和、人間性と人間の尊厳をめざす人民闘争、人民戦線、人民権力万歳。

 

(十)人民戦線的世界と人間像はつぎのとおりである。

 

 ◎国家・社会・生産活動の目的を最大限の利潤追求のためにするのではなく、すべてを人民と人間の豊かさのためにする。

 

◎◎生産第一主義と物質万能主義ではなく、人間性と人間の尊厳を第一にする。

 

 ◎金と物がすべてではなく、人間の心と自然の豊かさを第一にする。

 

 ◎着物や建物の美しさではなく、働く人びとの生きる姿の美しさを第一にする。

 

 ◎一人だけ自分だけが急いで先に進むのではなく、遅くてもみんなといっしょに力をあわせて進む。

 

◎◎存在(環境)が人間(の心)を決定する。存在(国家と権力)を人間(人民)のものにせよ。ここに人間性善説が最終的に勝利する。

                      (以上)